人生で一番大きな「売り物」を託される仕事
売主の利益を守るセラーズエージェント

不動産取引において、安心して任せられる仲介会社の存在は欠かせません。しかし、数多くの会社の中からどこに依頼すればよいのか迷う人も多いのではないでしょうか。「福岡×不動産売却」の津田孝幸さんは、福岡では数少ない売却専門の「セラーズエージェント」として、売主の利益を最大化する仲介に取り組んでいます。大手不動産会社で10年の経験を積んだ津田さんが、なぜ独立しセラーズエージェントの道を選んだのか。その背景には、不動産取引のあり方に対する強い問題意識がありました。
30歳で飛び込んだ不動産業界
ポスティング5万枚からの出発
津田さんが不動産業界に足を踏み入れたのは2012年、30歳のときでした。それまではプロパンガス会社に勤務。業務を通じて知り合った人の紹介で、不動産売買仲介大手「住友不動産販売株式会社」(現:住友不動産ステップ株式会社)へ転職したのです。
当時、中途入社の営業には厳しい条件がありました。試用期間は3カ月。その間に契約が取れなければ本採用はないという状況でした。
「通常業務を終えた夜遅くに自分でチラシをポスティングしていました。5万枚以上まいて、ようやく最初の問い合わせが来たんです。」

その一件が初契約につながりました。そこから津田さんは10年間、売買仲介の最前線で経験を重ねます。年間で約30〜50件の取引を担当してきました。
「入れ替わりが激しい業界ですが、10年間続けることで鍛えられましたね」
一期一会の取引
不動産仲介という仕事の魅力

不動産取引は、人生の中で何度も経験するものではありません。そのため、顧客との出会いはまさに一期一会です。
「お客さまとの出会いを大切にしながら取引をサポートできるのは、この仕事のやりがいだと思っています」
津田さんは物件の魅力を伝えることにも楽しさを感じていました。学生時代にはマスコミ関係の仕事に興味を持っていたといいます。
「間取りを見るのが昔から好きでしたし、広告でどんな写真を使うか、どんな文章で魅力を伝えるかを考えるのも楽しかったですね」
こうした思いから、物件の見せ方や広告の作り方にも自然と力が入るようになりました。
「自分にとっては天職だと思っています」
売主の涙が教えてくれた
「物件への思い」
長年の仲介経験の中でも、特に印象に残っている取引があります。ある女性が長年所有していたアパートの売却でした。高齢になり管理が難しくなったため、手放すことを決めたといいます。
売買契約が成立し、引き渡しの日。銀行で手続きを行う予定でしたが、約束の時間を1時間過ぎても売主が現れません。
「いつも付き添っていらした娘さんに連絡してみると、『母が泣いていて連れていけない』とのことでした」

そのアパートには、女性の思い出が詰まっていたのです。ようやく銀行に到着してからも、売主は涙ながらに買主へ物件の説明を続けました。
予定時間を大幅に超えた手続きとなりましたが、買主も売主の思いを受け止め、「大切に管理します」と伝えたそうです。
「自分が住んでいないアパートでもこれだけの愛着がある。だからこそ、一つ一つの物件に熱量をもって向き合わなくてはと思うようになりました」
安定より理想を
大手企業を離れた理由

津田さんは会社で順調に実績を積み上げ、役職にも就きました。そのまま勤務を続ければ安定したキャリアを築けたはずです。それでも津田さんは独立を選びました。背景にあったのは、仲介業務のあり方への疑問です。
「大手には、日々多数の売却相談が寄せられます。その対応だけでも手一杯ですが、役職が上がると、部下の育成という役割も担うことになります。結果として、一つの案件に充てられる時間が少なくなります。効率性や生産性はもちろん大切ですが、本来提供したいサービスまで端折ることに違和感を覚え始めました」
入社当初は、数字を追うこと自体にやりがいを感じていました。
「先輩より実績を出したいとか、インセンティブで年収が上がるとか、そういうことが楽しかったんです」
しかし、それも入社5年目くらいまで。何より大事なのは、「どうすればお客さまが喜んでくださるのか」を考えることだと気づいたのです。
「仲介手数料に見合う仕事を、しっかりとやりたいと思いました」
売主の代理人
「セラーズエージェント」とは
現在、津田さんは売主の代理人として活動する「セラーズエージェント」としての立ち位置をとっています。アメリカでは、売主を担当するセラーズエージェントと、買主を担当するバイヤーズエージェントが分かれるのが一般的だとか。
「売る人はできるだけ高く売りたいし、買う人は少しでも安く買いたい。利害が相反する両方の代理を務めるのは、理にかなわないとも言えます」
しかし日本では、同じ仲介会社が売主と買主を同時に担当することが多くあります。その場合、売主と買主双方から仲介手数料を受け取る「両手取引」が成立します。
この構造が「囲い込み」を生むことがあると津田さんは指摘。囲い込みとは、自社で両手取引を成立させるため、物件情報を他社に積極的に公開しない行為を指します。売主の利益や、買主が物件にアクセスする機会を損なう要因として、近年特に問題視されています。
「誤解ないように申し上げますが、私は両手取引を悪だと言っているわけではありません。売主さんのために販売努力を行い、自ら買主さんを見つける。これはすばらしいことです。私が問題だと考えているのは、囲い込みです。そのため私は、基本的に買主さんの対応は行わず、売主さんのみを担当します」
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では、買主はどう見つけるのでしょうか。
「私が信頼する他社の営業に販売を任せます。売る担当と買う担当が分かれるので、囲い込みは絶対に起こり得ません」
津田さんは、売主から預かった物件を魅力的に「商品化」することに注力します。
「物件の良さをしっかり伝える広告を作り、販売力のある営業に届ける。それが私の役割です」
不動産売却を成功に導く
「物件の商品化」

津田さんが特に重視しているのが、物件の見せ方です。現在、住宅購入の多くはポータルサイトから始まります。そのため、ポータルサイトで魅力を伝え、内覧希望を増やす努力が欠かせません。しかし実際には、物件の魅力が十分に伝わっていないケースも多いといいます。
「ポータルサイトを見てみると、見出しが定型文だったり、写真がなかったりする物件も多いです。『本当に売る気があるのかな』と思ってしまいます。私が売主だったら、そんな広告は嫌ですね」
売主が納得できる売却のために、津田さんは心血を注ぎます。扱う案件の約半数が、他社で売れずに相談されるケースだといいます。
「マンション最上階の角部屋であるにもかかわらず、前の仲介会社では半年間売れなかったという物件がありました。現地を確認すると、物は散乱し電気すらつかず、内覧環境が整っていない状態だったんです。そこで当社が電気の基本料金を負担して通電し、残置物も売主さんに撤去していただきました」
内覧時に価値がきちんと伝わる状態へ仕上げた結果、ほどなく成約に至ったといいます。手間を惜しまない姿勢が、早期売却へとつながったのです。
不動産売却は「会社」ではなく
「人」で選ぶ
津田さんは、不動産会社選びの考え方にも疑問を投げかけます。
「最終的に大事なのは、どこに頼むかではなく誰に頼むかです」
大手仲介会社でも、営業の力量には差があるのが現実です。さらに、不動産営業はインセンティブの割合が高い給与体系が多く、利益優先の行動を取る営業も少なからず存在するといいます。

「不動産業界には『稼げる仕事』というイメージがあるでしょう。実際、成果を上げれば収入に反映されやすい業界です。その一方で、稼ぐためには実績を積み上げ続けなければなりません。実績を上げるには、両手取引を狙うのが手っ取り早い。囲い込みが起こりやすい背景には、こうした構造があります。ともすれば、これまで誠実に業務をこなしてきた営業であっても、その月、そのタイミングの実績が悪かったら、囲い込みに手を染めてしまうかもしれません」
そのような、売主にとってネガティブな要素をはらむ業界の慣習や、仲介のシステムを抜本的に見直し、囲い込みができる状況自体を排除したと津田さんは言います。
「不動産は人生で一番大きな買い物と言われますが、裏を返せば一番大きな売り物でもあります。だからこそ売却を任せる“人”は慎重に選ぶべきでしょう」
津田さんが扱うのは、ほとんどがマイホームなど実需の物件です。そこには家族の思い出や愛着が詰まっています。
「大切な資産、愛着ある不動産の売却を託すわけですから、担当者選びにはこだわりたいですね」
不動産を売却するとき、あなたは「誰」に任せますか。



